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英語・英文学を中心に、言語や文学と関連して考えたり思いついたりしたことを書いていきます。
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2013/02/14 (Thu)
昨日書いたジブラルタルの1ポンドコインについての記事の中でネアンデルタール人のことに触れ、Neanderthal の thal の部分は「谷」を表すドイツ語 Thal (現代では Tal) に由来し、ネアンデルタール人はその骨が見つかったネアンデル谷の名前にちなんで名づけられたものであるということを書いた。その中で、この谷はJoakim Neander という人にちなんで名づけられたということにも触れたが、これらについて書いている時に、通貨単位「ドル」の語源について思い出すことがあったので、それをここにまとめてみることにした。

「ドル」は言うまでもなくアメリカで通用する通貨の単位で、後にカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど様々な国や地域に伝わり、そこでも使われるようになっている。しかし、アメリカの「ドル」はどこから来たものなのだろうか?

ネアンデルタール人の場合と同様、「ドル」も谷の名前に由来し、そのため、dollar は、英語のdale「谷」(=ドイツ語Tal) と同語源である。この谷はボヘミアにある Joakimsthal 「ヨアキムの谷」のことで、Joakimという名前が ネアンデルタール人の場合と(偶然だが)重なるところがある(ボヘミアは現在、チェコの一部だが、ここで話題とする時代にはドイツの貴族により支配される土地だった)。

Joakimsthalでは銀が採れ、16世紀の初め以降、ここで銀貨が作られ、それがドイツに流通するようになり、これが「ヨアキム谷の(お金)」という意味で Joakimsthaler と呼ばれるようになった。最後に付いた –erはドイツ語で形容詞を作る語尾で、Hamburger, Wiener, Nürnberger などしばしば地名と共に用いられ、「その土地(風)の、その土地に由来する」などの意味を表す。例えば、ウィンナーは「ウィーン風のソーセージ」、ウィンナー・コーヒーは「ウィーン風のコーヒー」というのと同じように、「ヨアキム谷の」銀貨が Joakimsthaler と呼ばれるようになったということである。

しかしこの Joakimsthaler というはやや長いということから、徐々に前半要素が省略され、 thalerという形で使われるようになっていった。もともと「ハンブルク風の」を意味した Hamburger「ハンバーガー」の前半要素が略され、「バーガー」となったのと似た感覚である。省略形が用いられるようになるのと並行して、ヨアキム谷の銀貨以外でも、似たような大きさの様々な硬貨に対して thaler という名前が使われるようになったそうである。

こうして、thaler が硬貨の名前として広く知られるようになったのであるが、16世紀後半以降、英語圏ではこれが特にスペインおよびその植民地で使われていた通貨ペソの英語名として用いられるようになった。このペソは、スペインの植民地と隣接した北米大陸におけるイギリスの植民地(つまりアメリカ)でも、特に独立戦争前後の時代に広く用いられ、アメリカ建国の父の一人とされるトーマス・ジェファーソンの以下の言葉にもあるように、当時のイギリス系アメリカ人の間に非常によく知られていた。

The unit or [Spanish] dollar is a known coin and the most familiar of all to the mind of the people. It is already adopted from south to north.  (Thomas Jefferson, Notes on a Money Unit for U.Sに基づくこの言葉は OED2, dollar, 3aの項より引用)

アメリカがイギリスからの独立を果たすと、例えば、Noah Webster が言語の上でもイギリスからの独立を果たすべく、American standard を提唱し、アメリカ綴りを導入したりしたが、同様に、通貨についてもイギリスとの違いをはっきりさせるべく、1785年7月6日に議会でドルの導入が議決された(しかし、OED2によると、これが法制化されたのは1792年4月2日で、実際に用いられ始めたのは1794年であった)。

こうして、本来はボヘミアのヨアキム谷で作られた銀貨の名前だったThaler(タラー)が多少英語風に訛り dollarとなり、アメリカの通貨の名称として採用され、今や基軸通貨の通貨単位名称として世界中で使われるに至っているのである。このようにビッグになったドルだが、dollar と dale「谷」 との語源的なつながりには、ヨーロッパの片田舎で生まれたドルの生い立ちが隠されているのである。
 

ついでに・・・・。

ドルというと薄緑色の1ドル札をまず思い浮かべるが、それと並行して1ドルコインも折に触れ(?)作られている(あまり流通はしていないようだが)。僕はアメリカにはもう20年近くも行っていないので、詳しい事情はよく知らないが、1993年に西海岸に行った時に、今作られているのとは違う1ドルコインを数枚手に入れ、それを持って帰ってきて今でも持っている。サンフランシスコで、有名な路面電車の切符を買うための自動販売機のおつりがどういうわけかいつも1ドルコインで出てきたためである。その自動販売機からこのコインが大分たくさん出てきたので、いくつか店などで使ってみたが、店の人は必ず不審そうに表も裏もよく見てから受け取っていた。それだけあまり使われない硬貨だったということだろう。

今回、ドル硬貨のことを書いたついでに、僕の持っている1ドルコイン(写真)のことをWikipedia(英語版)で調べてみたところ、Susan B. Anthony dollar という種類だということが分かった。これは1979~81年の間に鋳造され、その後1999年にも少し鋳造されたらしい。僕の持っているのはいずれも1979年のもので、傷も手垢もついておらず、流通した形跡がほとんど全くない綺麗なコインである。1979年に鋳造されたコインが新品同様の状態で1993年に街中の自動販売機から出てくるというのは何とも不思議な感じがするが、恐らく鋳造してからずっと銀行に在庫として保管されていたものが、ちょうど在庫処分(?)で放出されたりしていたのであろう。

そのコインにも(1ドル札にも)書かれているモットー、E pluribus unum は、大学に入ったばかりだった1993年当時は何のことだか分からなかった(あまり気にも留めなかった)が、その数年後に授業でラテン語を習い始めたある日、ふとこのモットーが目に留まり、いかにもアメリカらしいモットーだなと理解できてうれしく思ったことを今でも覚えている。

dollarcoin2.jpg dollarcoin1.jpg

 
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中世英語英文学や英語史を専門とし、駒澤大学文学部で教えています。さらに詳しくは、ホームページをご覧ください。
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